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SaaSの始め方 ── 中小企業が失敗しないSaaS導入の実践ガイド

SaaSは手軽に導入できる一方で、留意すべきポイントが多くあります。筆者の導入経験を踏まえ、中小企業がSaaSを上手に導入するための検討・導入・運用の3フェーズと、よく使われる製品ガイドを解説します。


質問:「SaaSを導入したいけど、何から手をつければいいのか分からない」「導入したけど、思ったほど使われていない」

中小企業のIT担当者や経営者の方から、よく耳にする声です。

SaaSは、自社でシステムを開発するより手軽に導入できる一方で、検討段階での見落とし運用の甘さから、思うような効果が出ないケースも少なくありません。私自身も、社内グループウェアの全社導入やBYOD(私物端末の業務利用)の導入、SharePointの展開、名刺管理アプリの導入など、さまざまなSaaS導入プロジェクトを経験してきました。その中で感じたのは、「導入は簡単でも、定着させるのは別の話」ということです。

本記事では、中小企業がSaaSを上手に導入するための実践的なポイントを、検討・導入・運用の3フェーズに分けて解説してみようと思います。Excel依存から業務別ツールへ移行する具体的なロードマップは「脱・Excelロードマップ」で解説しています。

想定読者

  • 中小企業の経営者・IT担当者で、SaaS導入を検討している方
  • 既にSaaSを導入しているが、定着させたい・効果を高めたい方
  • 「何から始めればいいか分からない」と感じている方
  • 補助金を活用してSaaS導入を進めたい方

この記事で得られること

  • SaaS導入の全体像と3フェーズ(検討・導入・運用)の進め方
  • 中小企業でよく使われるSaaS製品の業務領域別ガイド
  • メリット・デメリットと、実体験に基づく注意点
  • トライアルの活用法や出口戦略の考え方
  • 2026年度の補助金・支援施策の概要

目次

  1. 【基礎】SaaSとは何か?
  2. 【現状】中小企業でのSaaS導入状況
  3. 【目的】SaaS導入の目的と4つのパターン
  4. 【製品ガイド】業務領域別SaaS一覧
  5. 【メリット・デメリット】押さえておくべきポイント
  6. 【実践】SaaS導入の3フェーズ
  7. 【全体像】SaaS導入フローチャート
  8. 【ユースケース】課題別SaaS活用例
  9. 【事例】中小企業の成功事例
  10. 【補助金】活用できる支援施策
  11. よくある質問(FAQ)
  12. 【まとめ】SaaS導入を成功させるために

1. 【基礎】SaaSとは何か?

SaaS(サース) は「Software as a Service」の略で、インターネット経由でソフトウェアを利用するサービスです。従来のように自社サーバーにソフトをインストールするのではなく、Webブラウザやスマホアプリからアクセスして使います。

身近な例でいえば、GmailやMicrosoft 365(旧Office 365)もSaaSの一種です。月額料金を支払い、常に最新の機能を利用できるのが特徴で、中小企業にとっては「すぐに使える」「初期費用を抑えられる」という点が大きなメリットになります。


2. 【現状】中小企業でのSaaS導入状況

中小企業のSaaS導入は、年々着実に進んでいます。

スマートキャンプ株式会社が2025年7月に実施した「SaaS利用に関する調査(2025年版)」によると、SaaSの導入率は全国平均で**31.8%となっています。地域別では関東が49.8%**と最も高く、近畿(38.8%)、中部(33.7%)が続きます。1社あたりの利用数は「5個以下」が52.9%と最多で、「11個以上」利用している企業も33.0%に上ります。

SaaS導入による効果実感については、**75.3%が「効果あり」**と回答しており、特に「人事」「経営・経営管理」の分野では80%を超える高い満足度が確認されています。

pie title SaaS導入効果の実感(2025年調査)
    "効果あり" : 75.3
    "どちらとも言えない" : 16.2
    "効果なし" : 8.5

また、freee株式会社の調査(2025年)では、有償SaaSを導入している企業は約6割で、約8割の企業が「2年前よりSaaSの利用数が増えた」と回答しています。SaaSの利用が増えた理由としては「工数削減」「リモートワーク対応」「セキュリティ強化」が上位に挙がっています。

国内SaaS市場全体では、年平均成長率(CAGR)が堅調に推移しており、2029年度には市場規模が3.4兆円に達するとの予測もあります。IT導入補助金やクラウド活用促進施策が後押しとなり、特に中小企業の導入加速が続いています。


3. 【目的】SaaS導入の目的と4つのパターン

中小企業がSaaSを導入する目的は、単なるコスト削減だけではありません。経営課題の解決やDX推進の入り口として、SaaSは重要な役割を果たしています。DXの全体像や「何から始めればいいか」の悩みには、「中小企業のDXロードマップ」もあわせてご参照ください。

graph TD
    A["🎯 SaaS導入の目的"] --> B["業務効率化・<br>生産性向上"]
    A --> C["DX推進<br>(デジタル化の第一歩)"]
    A --> D["コスト削減・<br>最適化"]
    A --> E["リモートワーク・<br>多様な働き方への対応"]
    A --> F["データに基づく<br>経営判断"]
    A --> G["セキュリティ<br>強化"]
    
    B --> B1["手作業の自動化<br>Excel脱却"]
    C --> C1["紙→デジタル<br>業務プロセス改革"]
    D --> D1["自社開発不要<br>保守費用の削減"]
    E --> E1["場所を選ばない<br>働き方の実現"]
    F --> F1["売上・顧客データの<br>リアルタイム可視化"]
    G --> G1["クラウド側の<br>セキュリティ対策活用"]

    style A fill:#4A90D9,stroke:#6CB4EE,color:#FFFFFF
    style B fill:#2E7D32,stroke:#66BB6A,color:#FFFFFF
    style C fill:#E65100,stroke:#FF8A65,color:#FFFFFF
    style D fill:#6A1B9A,stroke:#CE93D8,color:#FFFFFF
    style E fill:#00838F,stroke:#4DD0E1,color:#FFFFFF
    style F fill:#AD1457,stroke:#F48FB1,color:#FFFFFF
    style G fill:#37474F,stroke:#90A4AE,color:#FFFFFF

私の経験上、SaaS導入の契機は大きく4つのパターンに分かれます。

① すぐに業務効率化・品質向上したい場合

「手作業が多くてミスが出る」「Excelでの管理に限界を感じる」といった現場の課題から導入が進むケースです。ただし、ここで注意したいのが費用対効果の厳しいチェックです。「便利そうだから」という理由だけで導入すると、結果的にコストだけが増えることがあります。ROIやTCOの考え方、投資判断のフレームワークは「IT投資対効果(ROI)の考え方」で詳しく解説しています。

② 既存システムからの乗り換え

老朽化したシステムやオンプレミス(自社サーバー設置型)のソフトからSaaSへ移行するケースです。このとき大事なのは、既存機能の単純な置き換えだけでなく、新しい価値を利用者に訴求することです。「前のほうが使いやすかった」と言われないよう、なぜ変えるのかの説明と、新しいメリットの提示が欠かせません。オンプレミスからクラウドへの移行手順やAWS/Azure/Google Cloudの比較は「クラウド移行ロードマップ」で詳しく解説しています。

③ トップダウン(経営層指示)による導入

経営者が「DXを推進する」と旗を振って始まるパターンです。このケースでは、利用者への浸透策が最重要になります。経営層の号令だけでは現場は動きません。一過性のブームで終わらせない工夫が必要です。

④ ボトムアップ(現場提案)による導入

現場の担当者が「このツールを使いたい」と提案するパターンです。ここでは、経営層への説得力ある説明がカギになります。導入コスト、期待効果、リスクを数字で示せると、承認を得やすくなります。経営層に響く説明のコツは「情シスが経営層にIT投資を通すための説明術」で詳しく解説しています。


4. 【製品ガイド】業務領域別SaaS一覧

中小企業でよく使われるSaaS製品を、業務領域ごとに整理しました。「何から始めればいいか分からない」という方は、まずは自社の課題に合った領域から検討してみてください。

会計・経理

製品名提供元概要主な用途
freee会計freee株式会社クラウド会計ソフトの定番。銀行口座やクレジットカードと連携し、仕訳を自動化記帳・請求書発行・確定申告・経費精算
マネーフォワード クラウド会計株式会社マネーフォワード会計・請求・給与・勤怠など複数サービスを統合的に利用できる財務会計・管理会計・経費精算
弥生会計オンライン弥生株式会社老舗の会計ソフトのクラウド版。操作性に定評あり会計処理・確定申告

人事・労務

製品名提供元概要主な用途
SmartHR株式会社SmartHR入退社手続き・年末調整などをペーパーレス化。登録企業数60,000社超労務管理・人事情報管理・年末調整
ジョブカン株式会社DONUTS勤怠管理から給与計算、経費精算まで幅広くカバー勤怠管理・給与計算・労務管理
KING OF TIME株式会社ヒューマンテクノロジーズクラウド勤怠管理の代表格。多様な打刻方法に対応勤怠管理・シフト管理

コミュニケーション・グループウェア

製品名提供元概要主な用途
Microsoft 365マイクロソフトWord・Excel・Teams等をクラウドで利用。中小企業向けプランありメール・チャット・Web会議・文書作成
Google WorkspaceGoogleGmail・Googleドライブ・Google Meetなどのビジネス版メール・ファイル共有・Web会議
SlackSalesforceチャンネルベースのビジネスチャットツールチーム内コミュニケーション・情報共有
サイボウズ Office / kintoneサイボウズ株式会社中小企業向けグループウェアと業務アプリ開発プラットフォームスケジュール管理・業務アプリ構築

営業支援・顧客管理

製品名提供元概要主な用途
SalesforceSalesforce世界最大のCRM/SFAプラットフォーム。中小企業向けプランもあり顧客管理・営業管理・マーケティング
SansanSansan株式会社法人向け名刺管理サービスの最大手名刺管理・顧客データベース構築
HubSpotHubSpot無料プランから始められるCRM。マーケティング機能も充実顧客管理・メールマーケティング

ファイル管理・ストレージ

製品名提供元概要主な用途
BoxBox企業向けクラウドストレージ。セキュリティ機能が充実ファイル共有・文書管理
SharePoint OnlineマイクロソフトMicrosoft 365に含まれる社内ポータル・文書管理ツール社内ポータル・ファイル共有・ナレッジ管理
Dropbox BusinessDropbox操作がシンプルなクラウドストレージファイル共有・バックアップ

5. 【メリット・デメリット】押さえておくべきポイント

SaaS導入を検討するにあたって、メリットだけでなくデメリットも正確に把握しておくことが重要です。私の導入経験から、特に中小企業に影響が大きいポイントをまとめました。

メリット

  • すぐに始められる:自社での構築不要。構築費用の算定も不要
  • 低コストで開始:月額課金型で初期投資を抑えられる
  • 常に最新:ベンダー側で機能をアップデートしてくれる

デメリット(実体験に基づく注意点)

  • 突然の値上げ:導入後にいきなり料金改定される場合あり
  • やめづらくなる:カスタマイズや長期利用でベンダーロックインに
  • 連携の壁:社内の他システムと連携しづらい場合がある
  • ユーザー管理の手間:登録・更新・削除が煩雑になりやすい
  • 機能の重複:類似SaaSが乱立し、社内で混在しやすい

特に気をつけたいのが**「やめづらくなる」問題**です。例えば、文書管理でBoxを使い始めたら大量のデータが蓄積され、いざ別のサービスに乗り換えようとするとデータ移行が大変…ということが起こります。コミュニケーションツールでもSlackとTeamsが社内で併存してしまい、「どちらを見ればいいのか分からない」という声が上がることは珍しくありません。

ユーザー管理も意外と手間がかかります。社員の入退社のたびに各SaaSのアカウントを作成・削除しなければならず、これが10個以上のSaaSになると相当な負担です。人事システムと連携できる仕組みがあると理想的です。情シス業務の全体像や優先順位の付け方は「中小企業の情シスの仕事内容」で解説しています。

そしてもう一つ、自分が痛い目を見たのが「導入そのものが目的化してしまう」という落とし穴です。所属企業で全社の文書管理を統一したいという掛け声のもと SharePoint を全社展開する案件を担当したことがあります。きっかけは、ある部長が他社のSharePoint活用事例を社外で見聞きしたことで、「うちでも入れたらいい」という社長へのアピール目的のトップダウン号令でした。

情シスとしては「導入する」こと自体が成功指標として動いてしまい、文書管理ルールの浸透、業務主管部との運用合意、他部門への横展開計画といった、本来一番時間を割くべき検討がおろそかなまま全社にロールアウトしてしまいました。業務部門側も「上から降りてきた」という消極的姿勢で、現場の主体性は最後まで生まれませんでした。

結局、導入から 約4年で廃止判断 が下りました。廃止を決めたのは、当時の私とは別の情シス部チーム統括。導入時点での総コストは概算で 500万円程度(ライセンス+運用工数)、加えて廃止判断後の撤退コスト(移行・撤去工数)が 約50万円 でした。現場では「使われていないのに毎月の管理作業だけ続いている」という声が長く上がっていました。

もう一度この案件をやるなら、最初の3ヶ月で何を変えるか。明確で、スポットでPoCを始める前に、全社の文書管理戦略(どこに何を、どれくらいの期間置くか)と、ツール選定・棲み分けの方針を、業務主管部の部長と合意してから動く ことです。一過性のPoCで「使った気になる」のは、4年後に必ず後悔します。SaaSのデメリットのなかで、ユーザー管理や乗り換えコストよりも実は 「目的が曖昧なまま入れた」ことのコストが一番高い というのが、この案件で得た最大の学びです。


6. 【実践】SaaS導入の3フェーズ

SaaS導入は「検討→導入→運用」の3つのフェーズに分けて進めるのがポイントです。それぞれのフェーズで押さえるべきポイントを解説します。

graph TD
    subgraph Phase1["📋 STEP1:検討フェーズ"]
        A1["目的・課題の明確化"] --> A2["類似製品の比較"]
        A2 --> A3["トライアル実施"]
        A3 --> A4["利用方法の策定"]
        A4 --> A5["出口戦略の検討"]
    end
    subgraph Phase2["🚀 STEP2:導入フェーズ"]
        B1["利用者への丁寧な説明"] --> B2["運用ルールの策定"]
        B2 --> B3["セキュリティチェック"]
        B3 --> B4["各部署の推進担当を設置"]
    end
    subgraph Phase3["🔄 STEP3:運用フェーズ"]
        C1["定期的な利用者支援"] --> C2["利用促進の発信"]
        C2 --> C3["効果測定と改善"]
        C3 --> C4["ベンダーサポートの活用"]
    end

    Phase1 --> Phase2 --> Phase3

    style Phase1 fill:#1A237E,stroke:#5C6BC0,color:#FFFFFF
    style Phase2 fill:#004D40,stroke:#26A69A,color:#FFFFFF
    style Phase3 fill:#E65100,stroke:#FF8A65,color:#FFFFFF

STEP1:検討フェーズ ─ 導入前が一番大事

① トライアルで実際に操作する

多くのSaaSには無料トライアル期間(14日〜30日程度)があります。カタログやベンダーの営業トークだけで判断せず、必ず実際に触ってみてください。カタログに書いてある機能が、実際の業務で使えるレベルなのかを自分の目で確認することが大切です。

ユースケース: 製造業A社では、在庫管理SaaSの導入を検討。ベンダーの営業資料では「バーコード読み取り対応」とあったが、トライアルで試したところ自社で使っているバーコード形式に非対応だった。事前に確認したことで、別製品を選定でき、導入後のトラブルを防げた。

② 類似製品を比較する

機能・コストだけでなく、以下の観点でも比較しましょう。

  • 運用管理機能:管理者用のダッシュボード、ユーザー管理の使いやすさ
  • サポート体制:日本語対応か、チャットサポートか電話サポートか、対応時間
  • 他システムとの連携:APIの有無、既存ツールとのデータ連携
  • 同業他社の導入実績:自社と近い業種・規模の企業が使っているか

③ 社内での利用方法・ユースケースを定める

SaaSは多機能なものが多いですが、すべての機能を使う必要はありません。自社で使う機能を明確にしておくことで、利用者の混乱を防ぎ、社内統制を取りやすくなります。「このSaaSでは○○と△△の機能を使う。□□の用途には使わない」と明文化しておきましょう。

④ 出口戦略も考えておく

万が一、導入したSaaSの利用をやめる場合のことも考えておくべきです。特にSaaS内にデータを蓄積していくタイプのサービスは要注意です。

  • データのエクスポート(書き出し)方法は用意されているか?
  • エクスポートできるデータ形式は何か(CSV、PDF、API経由等)?
  • 他システムへの移行は現実的に可能か?

私の経験でも、「このSaaSをやめたいけど、3年分のデータが入っていて移行できない」というケースを見てきました。導入前の段階で出口を確認しておくことを強くお勧めします。ITベンダーやSaaS事業者との適切な関係構築やベンダーロックイン回避の考え方については、「ベンダーマネジメントの基本 ── IT業者に振り回されないための5つの心得」もあわせてご参照ください。

STEP2:導入フェーズ ─ 利用者のサポートが成否を分ける

① 利用者への支援は手厚すぎるくらいでちょうどいい

IT担当者やシステム部門にとっては「当たり前」に思えることでも、現場の利用者には分からないことが多いです。マニュアルの作成、説明会の開催、FAQの整備を必ず行いましょう。末端の利用者(ITに詳しくない方)にも伝わるレベルで丁寧に説明することが成功のカギです。問い合わせを減らすためのFAQ整備やAIチャットボットの導入は「社内ヘルプデスクの問い合わせを半減させる」で具体的な方法を紹介しています。

② 運用ルールをしっかり決める

運用ルールが曖昧なままだと、部署ごとに使い方がバラバラになります。以下の項目を事前に決めておきましょう。

  • 各部署・チームの推進担当者(情報システム部門の「味方」を各所に作る)
  • ユーザー管理方法(アカウント発行・変更・削除のフロー)
  • 問い合わせ方法(誰に、どうやって質問するか)
  • ユーザーの役割・権限設定

③ セキュリティチェックを必ず行う

SaaSはインターネット経由で利用するため、セキュリティの確認は必須です。以下の項目をベンダーに確認しましょう。なお、SaaS導入後の運用も含めたセキュリティ対策の全体像は「IT担当者が最低限やるべきセキュリティ対策15選」で解説しています。

チェック項目確認内容
情報管理体制ベンダーのセキュリティポリシー、ISO 27001等の認証取得状況
データ保護データの暗号化、保存場所(国内/海外)、バックアップ体制
認証方法MFA(多要素認証)対応か、SSO(シングルサインオン)対応か
ログ保存操作ログの保存期間、管理者による確認方法
障害時対応SLA(サービス品質保証)の内容、障害発生時の通知・復旧体制
管理者機能管理コンソールの充実度、ユーザー権限の細かい設定が可能か

💡 用語解説

  • MFA(Multi-Factor Authentication/多要素認証):パスワードに加えて、スマホのアプリや指紋認証など、複数の方法で本人確認を行う仕組み
  • SSO(Single Sign-On/シングルサインオン):1回のログインで複数のサービスを利用できる仕組み
  • SLA(Service Level Agreement):サービス提供者が保証する稼働率や対応速度などの品質基準

STEP3:運用フェーズ ─ 導入して終わりではない

① 利用者への定期的な支援

導入直後は使ってくれていた社員も、時間が経つと「前のやり方に戻ってしまう」ことがあります。定期的に活用事例の共有や説明会を行い、SaaSの価値を再認識してもらうことが大切です。

② 利用促進のための発信

社内報やメール、チャットなどで定期的にSaaSの活用Tipsを発信しましょう。「こんな便利な使い方がある」という情報を小出しにすることで、利用者のモチベーション維持につながります。

可能であれば、ベンダーのヘルプデスクやサポート窓口に利用者が直接問い合わせできる体制を作っておくと、IT担当者の負担を大幅に軽減できます。私の経験でも、この仕組みがあるだけで運用フェーズのストレスがかなり減りました。

③ 効果測定と改善

「SaaSを導入した結果、どのくらい業務が改善されたか」を定期的に振り返ります。導入前に設定した目標に対して、達成度を確認しましょう。


7. 【全体像】SaaS導入フローチャート

導入を検討し始めてから運用が軌道に乗るまでの全体像を示します。

graph TD
    START["SaaS導入を検討"] --> Q1{"課題は<br>明確か?"}
    Q1 -->|No| A1["業務の棚卸し<br>課題の洗い出し"]
    A1 --> Q1
    Q1 -->|Yes| A2["対象業務の<br>SaaS製品を調査"]
    A2 --> A3["3社程度を<br>比較検討"]
    A3 --> A4["トライアル実施<br>(2〜4週間)"]
    A4 --> Q2{"現場の<br>評価は?"}
    Q2 -->|不評| A3
    Q2 -->|好評| A5["社内利用ルール<br>の策定"]
    A5 --> A6["セキュリティ<br>チェック"]
    A6 --> A7["導入決定<br>契約"]
    A7 --> A8["マニュアル作成<br>説明会実施"]
    A8 --> A9["全社展開<br>利用開始"]
    A9 --> A10["定期的な<br>効果測定・改善"]
    A10 --> GOAL["SaaS定着<br>業務改善実現"]

    style START fill:#1565C0,stroke:#42A5F5,color:#FFFFFF
    style GOAL fill:#2E7D32,stroke:#66BB6A,color:#FFFFFF
    style Q1 fill:#E65100,stroke:#FF8A65,color:#FFFFFF
    style Q2 fill:#E65100,stroke:#FF8A65,color:#FFFFFF

8. 【ユースケース】課題別SaaS活用例

中小企業でよくある課題と、それに対応するSaaS活用例をまとめました。

よくある課題SaaS活用例期待効果
Excelでの顧客管理が限界CRM(Salesforce、HubSpot等)を導入顧客情報の一元管理、対応漏れの防止
経理業務に時間がかかりすぎクラウド会計(freee、マネーフォワード等)を導入仕訳自動化、月次決算の迅速化
勤怠管理が紙のタイムカードクラウド勤怠(KING OF TIME、ジョブカン等)を導入集計の自動化、不正打刻の防止
入退社手続きが煩雑労務管理(SmartHR等)を導入ペーパーレス化、手続き漏れの防止
社内のコミュニケーション不足ビジネスチャット(Slack、Teams等)を導入情報共有の迅速化、メール削減
ファイル共有がUSBやメール添付クラウドストレージ(Box、SharePoint等)を導入安全なファイル共有、バージョン管理
営業の進捗が見えないSFA(Salesforce、kintone等)を導入営業パイプラインの可視化
契約書の押印に時間がかかる電子契約(クラウドサイン、DocuSign等)を導入契約締結の迅速化、ペーパーレス化
IT機器の管理が属人的IT資産管理SaaSを導入機器台帳の一元管理、棚卸し効率化

紙の業務を電子化する際の進め方(電帳法対応を含む)は「ペーパーレス化の始め方」で詳しく解説しています。


9. 【事例】中小企業の成功事例

実際にSaaSを導入して成果を上げている中小企業の事例を紹介します。

事例1:石田クリーニング ─ kintoneで経営とアルバイトの溝を解消

愛媛県のクリーニング事業者である石田クリーニングでは、経営層と現場のアルバイト間の情報共有に課題を抱えていました。kintoneを導入することで、店舗ごとの売上や業務連絡をリアルタイムで共有できる体制を構築。経営判断のスピードアップと、現場スタッフの当事者意識向上を実現しました。

事例2:株式会社NLTEC ─ 複数SaaS連携でデータ統合を実現

不動産・建設業の株式会社NLTEC(従業員数1〜49名)では、kintone、freee会計、freee人事労務など複数のSaaSに蓄積されたデータの統合・可視化が課題でした。SaaS連携ツール(Reckoner)を導入し、kintoneからSharePoint、さらにPower BIへとデータを自動連携する仕組みを構築。各所に点在していたデータの更新作業を自動化しました。

事例3:コムデック ─ SmartHRで「一人総務」の負担を軽減

三重県伊勢市のIT企業コムデックでは、ほぼ「一人総務経理」体制で人事労務業務を回していました。SmartHRの無料プラン(30名まで)を活用して導入。従来Evernoteに雑多に保存していた人事情報をSmartHRに集約し、入退社手続きや年末調整のペーパーレス化を実現しました。

事例4:製造業の中小企業 ─ freee会計で月次処理を大幅短縮

データベースマーケティング企業のランドスケイプでは、従来Notesで行っていた経理部門の月次処理をkintoneとfreee会計の連携に切り替えました。その結果、20営業日かかっていた月次処理作業が7営業日に短縮。CSVやExcelによる手作業が減り、数値ミスへの不安も解消されました。

事例5:従業員5000人企業でグループウェアを入れ替えた時の話

私が情シスとしてグループウェアの入替プロジェクトを担当した時、きっかけは現行スケジュールシステムの保守サポート切れでした。中堅以上の規模では一度は経験する場面だと思います。

最後まで残った候補は desknet’s NEOkintone の2製品。社内には「現行のスケジュール機能をそのまま維持してほしい」というユーザーニーズと、トップからの「単純取替ではなく業務効率化を出せ」という相反する要求があり、両方を同時に満たせる製品を選ぶ必要がありました。最終的に desknet’s NEO を選定した決め手は、スケジュール以外に 回覧レポート・アンケート・インフォメーション といった「集約作業を効率化できる機能」が標準で揃っていたことです。

定量効果として算定したのは、これらの集約作業の削減による 年あたり約2人年分の労働時間削減。これをトップに繰り返し訴求してようやく導入の意思決定にこぎ着けました。

導入工程で一番ハマったのはマスタ・他システム連携です。具体的には、

  • 文字コード(旧字体の人名)の不整合
  • 社内の組織マスタとグループウェア側の組織階層構造の差
  • マスタファイル形式の違い

の3点で、いずれも事前に想定しきれず後追いで対応する羽目になりました。中小規模でもクラウドSaaSを既存システムに繋ぐ場面では、必ずどれかが顔を出す論点だと考えています。

利用者支援としては、ユーザー向け・業務管理者向けに 15分×6本の説明動画 を撮影して配信しました。掲示板の文字案内は、規模が大きくなるほど読まれない傾向があり、動画は後から入社した人にも回せるストック資産になります。

5000人の体験から、SaaS導入を検討する中小企業へ: 製品選定そのものよりも、①マスタ連携のフォーマット差異 ②ユーザー説明の動画化 ③定量効果のトップ訴求 の3つが、導入を成功と失敗に分けるポイントだと体感しています。


10. 【補助金】活用できる支援施策

SaaS導入にかかる費用は、各種補助金・支援施策を活用することで軽減できます。2026年2月時点で利用可能・利用見込みの主な支援施策をまとめました。

デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)

2026年度より、従来の「IT導入補助金」は**「デジタル化・AI導入補助金」**に名称変更されました。中小企業がITツール(SaaS含む)を導入する際の費用の一部を国が補助する制度で、通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠などの申請枠が用意されています。名称変更の背景や変更点の詳細は「IT導入補助金がデジタル化・AI導入補助金に変わった」、自社に合う補助金の選び方は「DX補助金フローチャート比較」で解説しています。

項目内容
補助率1/2〜3/4(枠・条件により異なる)
対象SaaS利用料(最大2年分)、導入設定費用等
申請方法IT導入支援事業者を通じて電子申請
2026年度の募集開始2026年3月30日〜(予定)
ポイントAI活用を重視した制度設計へ移行。生成AIツール等が新たに明確化

その他の支援施策

支援施策概要情報元
中小企業省力化投資補助金人手不足に対応するための設備投資やITツール導入を支援中小企業庁
地方自治体独自のDX推進補助金各自治体が独自に展開するクラウドサービス導入補助。国の制度と併用可能な場合も各自治体の産業振興課・商工会議所
みらデジ中小企業のデジタル化を無料で診断・サポートするポータルサイト。経営チェック実施はデジタル化・AI導入補助金の必須/加点要件みらデジ
よろず支援拠点国が設置した無料の経営相談所。IT・DX導入の相談も可能中小企業庁・各都道府県に設置

補助金活用のポイント

  • 早めの準備:公募期間には締め切りがあります。「GビズID」の取得や事業計画書の準備は事前に進めておきましょう
  • IT導入支援事業者の選定:補助金申請はベンダー(IT導入支援事業者)と共同で行います。信頼できるパートナーを早めに見つけることが成功のカギです
  • 課題の言語化:「なぜこのSaaSが必要なのか」「どのくらいの効果が見込めるのか」を具体的な数字で説明できると、採択率が上がります

11. よくある質問(FAQ)

Q1. SaaSとクラウドサービスの違いは何ですか?

A. クラウドサービスは「インターネット経由で提供されるITサービス全般」を指す広い概念です。SaaSはその中の一つで、「ソフトウェアをサービスとして提供する形態」を指します。他にIaaS(インフラをサービスとして提供)やPaaS(開発基盤をサービスとして提供)があります。中小企業が利用するほとんどのクラウドサービスはSaaSに該当します。

Q2. 無料プランのSaaSだけで十分ですか?

A. 業務の規模や内容によります。たとえばSmartHRは30名まで無料で使えるプランがあり、小規模企業であれば十分活用できます。ただし、無料プランは機能制限やサポート範囲が限定されている場合がほとんどです。まず無料プランで試してから、必要に応じて有料プランに移行するのが賢い進め方です。

Q3. 社内にIT担当者がいなくても導入できますか?

A. 可能です。近年のSaaSはITの専門知識がなくても使えるように設計されています。また、IT導入支援事業者に相談すれば、製品選定から導入支援まで伴走してくれます。デジタル化・AI導入補助金を活用すれば、その支援費用も補助対象となる場合があります。

Q4. 導入したSaaSが合わなかった場合、すぐに解約できますか?

A. 多くのSaaSは月額契約のため、比較的柔軟に解約可能です。ただし、年間契約の場合は途中解約に制約がある場合があります。また、蓄積したデータの移行に時間がかかることもあるため、契約前にデータエクスポートの方法と解約条件を必ず確認してください。

Q5. 複数のSaaSを使う場合、データ連携はできますか?

A. SaaS同士の連携は「API」(Application Programming Interface:ソフトウェア同士がデータをやり取りするための仕組み)を通じて行えるものが増えています。たとえばfreee会計とkintoneの連携、SlackとGoogle Driveの連携などが代表例です。連携の可否は製品によって異なるため、導入前に確認しましょう。iPaaS(Integration Platform as a Service)と呼ばれる連携専用ツール(Zapier、Reckoner等)を使う方法もあります。

Q6. セキュリティは大丈夫ですか?データが外部に漏れませんか?

A. 大手SaaSベンダーは高度なセキュリティ対策を施しており、多くの場合、中小企業が自社でサーバーを運用するよりも安全です。ただし、ユーザー側の対策も重要です。強固なパスワードの設定、MFA(多要素認証)の有効化、退職者アカウントの速やかな削除など、基本的な管理を怠らないようにしましょう。SaaSアカウントの一覧化や退職時の削除フローなど、管理の具体策は「SaaS管理入門」で解説しています。

Q7. SaaSの導入にどのくらいの期間がかかりますか?

A. シンプルなツール(チャット、勤怠管理等)であれば数日〜1週間で利用開始できます。全社的な業務システム(会計、CRM等)の場合は、検討から定着まで1〜3か月程度を見込んでおくのが現実的です。


12. 【まとめ】SaaS導入を成功させるために

本記事の内容をまとめると、こんな感じになります。

  • SaaS導入は「検討→導入→運用」の3フェーズで進める。特に検討フェーズでのトライアル実施と出口戦略の確認が重要
  • 利用者への支援は手厚すぎるくらいでちょうどいい。IT担当者にとっての「当たり前」が、現場には伝わっていないことが多い
  • メリットだけでなくデメリット(やめづらさ、ユーザー管理の手間など)も把握し、導入前に出口を確認しておく
  • **2026年は「デジタル化・AI導入補助金」**をはじめとする支援制度が充実している。今が動き出す絶好のタイミング

最も伝えたいことは、「SaaS導入はゴールではなく、業務改善のスタートである」ということです。導入して満足するのではなく、現場に定着させ、継続的に改善していくことが本当の意味での成功です。導入後は、SaaS一覧の整備や棚卸し、コスト最適化など「管理」の仕組みづくりが重要になります。具体的な進め方は「SaaS管理入門 ── 増え続けるサブスクを見える化してコストを最適化する」で詳しく解説しています。

まずは自社の一番の課題を見つけ、その課題を解決できるSaaSを1つ選んで、トライアルから始めてみてください。小さな一歩が、会社全体のDXにつながっていきます。DX推進の全体像や次の一手を知りたい方は「中小企業のDXロードマップ」もあわせてご参照ください。

以上となります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


参考:

本記事は2026年2月時点の情報に基づいて作成しています。補助金等の制度内容は変更される可能性がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。